Plate tectonics and mantle convection
 
プレートテクトニクスとマントル対流
6. マントル内部の三次元構造を見る
 地球の中は光を通さないので,目で見ることはできない.このため,地球内部を伝わる地震波を使って地球内部の様子を調べる.人体の内部を調べるのにX線や超音波を使うのと同様である.特に,地震波の到着時間 (注23) を解析することにより,地球内部を地震波が伝わる速さの分布を知ることができる.地震波が伝わる速さ (地震波速度 (注24)) はその物質の組成や結晶構造 (注25) によって大きく変わるので,地球内部の組成や結晶構造を推定できるのである.
 こうした考え方は,1980年頃までは,主に地球内部の層状構造を調べるのに用いられてきた.というのは,地球はタマネギのような層状構造をしていて,地震波の到達時間はほとんど層状構造を反映したものとなるからである.このような研究により,地球内部が主に地殻・マントル・核からなることが分かった.また、マントルの内部にも深さ660 kmで地震波が急に増加する場所があり (注26)、上部マントルと下部マントルに分かれることが知られるようになった.
 では,マントル対流の様子を知るにはどうしたら良いだろうか?例えば,沈み込んだプレートはどこへ行くのであろうか?高温の部分は周りよりどのくらい温度が高いのか?・・・ということを知りたいのである.ところで,岩石中を伝わる地震波の速度は組成や結晶構造だけによって変化するのではない,温度が高くなると地震波が伝わる速さが少しだけ遅くなり,温度が低くなると少しだけ速くなる (注27).このため,地震波が伝わる速さの3次元分布が分かれば,マントルの温度分布を見積もることができるはずである.この方法は地震波トモグラフィーと呼ばれ, 1980年代半ばに実用化された (文献8).ところで, 医療のCTスキャン (注28) や超音波エコーという画像診断法をご存知だろうか?これらの方法ではX線や超音波を様々な角度から人体に照射し,内臓や胎児などの体内の立体画像を作成する.地震波トモグラフィーでは,X線や超音波の代わりに地震波を使って, いわば地球を画像診断する.地球上にはたくさんの地震が起きているので,それらの地震波は地球の中を様々な経路で伝わってゆく.地震波のデータを大量に集め,コンピュータで解析することによって,地震波が伝わる速さの三次元的な分布 (注29) を知ることができる.
 地震波トモグラフィーによって得られた地震波速度分布が図6である (文献9)(注28).この図は,南米〜日本〜東・中央アジア〜アフリカとアフリカ〜南極〜南米を横切るマントルの断面および核・マントル境界を見ている.残念ながら,地震波トモグラフィーでCTスキャンや超音波エコーのような鮮明なマントルの画像を作ることは,まだできていない.しかし,注目すべき特徴がいくつか見られる.
 
 
(注23) 地震波の到着時間は走時と呼ばれる.
(注24) ベクトル量ではないが,地震波速さでなく地震波速度と呼ぶのが定着している.
(注25) 原子間距離によっても変化するので,圧力が増加すると地震波速度も増加する.
(注26) 深さ410 kmにも地震波伝搬速度が急に増加する不連続面がある.この地震波不連続面はオリビンからウォズリアイトの相転移に対応していると考えられている.深さ410 kmから660 kmまでをマントル遷移層と呼ぶ.
(注27) 温度変化により,地震波速度が変化する量は地震波速度の深さ変化の量に比べてごくわずかである.温度の1000°C程度変化に対して速度変化は数パーセントである.地球の層状構造を研究する場合には無視しても良い程度の変化であった.1980年代に地震計の高性能化とディジタル化が進み,有意な差が計れるようになってきたため,トモグラフィーが実用化された.
(注28) CTスキャンのCTは”Computed Tomography”を略したものである.
(注29) 図の提供は海洋研究開発機構・大林政行氏,深尾良夫氏.青は地震波が速く伝わる場所.赤は遅く伝わる場所である.ここで, 地震波速度が速いか遅いかというのは,その深さにおける平均の速さに対してのずれである.
図6: 地震波トモグラフィーで見たマントル内部の地震波速度の分布
(クリックで拡大します・トモグラフィーの原理や図の意味の説明はこちら)