プレートテクトニクスとマントル対流
12. 下部マントルへ沈み込むスラブとプルームの発生
地震波トモグラフィーによれば,しばらくすると660 kmの相境界を通り抜けて,下部マントルへ落下するように見える.どういう仕組みで,下部マントルに落下するのだろうか?相境界がスラブを支えられる重さには限度があり,スラブが積み上がると支えられなくなることを
第8節
でお話しした.スラブが積み上がった状態にするにはどうしたら良いのだろうか?考えられる仕組みの1つは,スラブが柔らかく,変形しやすくなることである.高圧物性実験によって,下部マントルの最上部でスラブが柔らかくなる可能性が高いことが示されている (
文献15
).
図10
のモデルでは,この仕組みを取り入れることにより,スラブを下部マントルに落下させることに成功している.スラブが柔らかくなって上下方向に折れ曲がれば,スラブの厚くなったのと同じ効果を持つ.スラブが斜めになった部分と水平になっている部分の折れ曲がりの場所から,
図10(d)
のように下部マントルへ少しずつ垂れ下がって(白矢印),下部マントルへ落下していくのである.
下部マントルには,流れを妨げるような相転移は存在しない (注41).このため,下部マントルに落下し始めたスラブは,最後にマントルの底まで落ちていくと考えられる.落下したスラブは,地震波トモグラフィーでも,核・マントル境界付近の高速度領域として見られる (
図6
).こちらは
下部マントルを落下して行くスラブ
を数値シミュレーションで再現した図である (注42).
この際に起こる現象について,図13を見ながら考えてみよう.核・マントル境界には核からの熱をもらって高温の層が形成されている.沈み込んだプレートが核・マントル境界近くまで達すると,その熱い層を乱す.高温の層が乱されると,上昇流が発生する.この熱い上昇流は前にお話ししたようにプルームと呼ばれる.沈み込むプレートが板状であるのに対し,プルームはマツタケの傘と柄のような形をしていると予測 (
右のプルーム
:プルームは赤い縦に伸びている部分) されている.発生して間もないプルームは,プレート直下にマントル深部から大量の熱を運んでくる (注43).その熱は,大規模な火山活動を引き起こし,インドのデカン高原のような玄武岩台地を作ると考えられる.その噴火は,気候変動にも強い影響を与え,大量絶滅を起こす可能性があると考えられている (
文献16
).
ところで,プルームは,「マツタケの傘」の部分を除けば,プレートの厚さと同様な100 km程度の大きさを持つと予測される.これは,熱伝導率がプレートとプルームの温度の違いであまり変わらないからである.一方,地震波トモグラフィーの画像を見ると,大きな低速度域がアフリカと太平洋下のマントル深くに見えている (
図6
, 赤色の領域).これらは,プルームなのだろうか?理論的に予測されたプルームよりも大きいため,2つの低速度域を
スーパープルーム
と呼ぶことがある.多くの研究者は,スーパープルームとほかの部分では,岩石の構成が少し異なるのかもしれないと考えている (
文献17
).普通のマントルよりも少しだけ密度の高い物質が,下部マントルの底に沈んでいる (
シミュレーション
の下の方にある赤いかたまりや図13の赤紫の場所 (注44)).ちょうど味噌汁の味噌の濃い部分のような感じである.この物質が,沈み込むプレートが引き起こすマントル対流に流されて,2カ所に寄せ集められる.これが,太平洋とアフリカの下に存在するスーパープルームではないか?と推測しているのである.
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(注41) マントル最深部にはポストペロブスカイト相転移が存在する.この相転移は正のクラペイロン勾配を持つので流れを妨げない.
(注42) 図は,プレートの沈み込みとマントル最深部における高密度の物質の存在を取り入れた数値シミュレーションである (
文献18
).
すなわち,
図13のモデルにおいて考えられている要素を考えている.
図の色は,その深さにおける温度の平均温度からの差を表す。このシミュレーションではプレート運動を再現できるレオロジーのほか,下部マントル最深部の高密度物質も考慮した。下部マントル深部において,水平スケールの大きな高温 (赤色)・低温
(青色)
の領域が作られており,地震波トモグラフィーの結果と調和的である。
(注43) ちょうど傘が開く前のマツタケのような形を想像してほしい.核・マントル境界で発生したプルームは傘の部分を先端に上昇してくる,このとき大きい傘の部分が多くの熱を運ぶのである.
(注44) こういう部分は高密度パイル (積み上がったもの) と言われることがある.トモグラフィーの大規模低速度領域 (LLSVP,
文献A3
) の大きさ (核マントル境界の3割程度を占める) に合わせて赤紫の部分をもっと大きく書くべきだった.しかし,筆者はAdobe Illustratorに不慣れなため,このままとした.
図13: 観測と数値シミュレーションから推測したマントル対流の姿
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)