Plate tectonics and mantle convection
 
プレートテクトニクスとマントル対流
11. 滞留スラブと縁海の形成
 スラブが660 kmの境界と接触すると,スラブの沈み込みにある変化が起きる.沈み込み帯付近を拡大した図(図11)で,この様子を少し詳しく見てみよう (注37).
 
スラブに働いている力のバランスが変わって,スラブはゆっくり後ずさりし始める (注38).このため,沈み込み帯のプレート境界,すなわち海溝が海側に動くことになる.海溝が後退すると,スラブ先端から相境界へ掛かる加重が減少する (注39).この作用によって,スラブは660 kmの相境界をすぐに通り抜けることができなくなる.沈み込んだプレートは滞留スラブを形づくる.地表では,海溝 (左側下向き矢印) が海側に移動すると,大陸プレートが引き延ばされて (図11(b),横向き矢印),大陸地殻 (赤塗りつぶし部分) の海溝に近い部分が大陸本体から離れてゆく.引き延ばされたところには,中央海嶺と同じように新しい海底ができる (図11(c),右側下向き矢印).このようにしてできたのが,現在の日本海や日本列島であると考えられる.図11(d) で,大陸側のプレートが引き延ばされて,薄くなっているところが,新しくできた海洋プレートである(横向き矢印部分).日本のように沈み込み帯にある島々を島弧,島弧の後ろ側,つまり大陸プレート側を背弧と呼ぶ.また,背弧にある海洋のことを縁海と呼び,その海底のことを背弧海盆と言う.
(注37) ここでも4つの図は時間の経過を表す.実線は等温線(600-1400°Cで200°C毎)で表し,破線は2つの相境界を表す.
(注38) これは,スラブが660km相境界に衝突したときに,スラブに垂直に働いている力のバランスが変化するためである.斜めになっているスラブは,マントルウェッジのアセノスフェアを掻き出す流れによって発生する圧力低下によって支えている(図のWF).スラブが660km境界から上向きの浮力を受けると沈み込みの速度が低下する.このため,ウェッジ内部の圧力の減少量が少なくなって,上向きの力WFが小さくなる.このため,スラブをスラブが固定したままの状態では支えきれなくなって,スラブが後退する.
(注39) 海溝の後退は海溝とともに動く視点でみれば,下部マントルの流れがスラブ先端を海溝から離れる方向へ引きずるのと等価である.この流れは同時に,スラブを下に凸の形にする変形を起こし,スラブが相境界に衝突する角度も浅くする.これらの2つことによって,海溝の後退は,スラブが相境界に衝突しているスラブの先端を押す荷重を減少させる.リンク先の図はスラブの応力の時間変化を表す.ここで,赤は応力が大きい場所である.滞留スラブを形成しているとき(a)には,660km相境界付近においてスラブの応力は相境界への衝突にもかかわわず小さいことが確認できる.一方,下部マントルへの落下時(c)には,スラブの折れ曲がりの部分の応力が大きくなっている (矢印).このような応力分布の変化は,深発地震の深さの最大値が滞留スラブのある沈み込み帯では浅く,スラブが下部マントルへ落下している沈み込み帯で深いこと (文献13) と調和的である.
(注40) 横軸はGPS等によって観測された背弧変形の速さ(1年間あたりの伸縮量)を表し,正が伸張(つまり背弧拡大が起きている),負が圧縮を表す.Lallemandほか (文献14) がまとめた観測データを用いて作図した.
図11: 滞留スラブの形成と背弧拡大
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観測を見ると (図12)(注40),背弧が引き延ばされている沈み込み帯の地下には,破線で囲った部分のように,多くの場合660kmの相境界と接触している最中のスラブがあることが分かっている.
 
 
図12: スラブの最深点の深さと背弧の変形
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