Plate tectonics and mantle convection
 
プレートテクトニクスとマントル対流
8. 鉱物の相転移とマントル対流
 スラブが下部マントルへ落下できるのはなぜなのか?この問いに答えるのに重要なマントルの性質は,鉱物の相転移である (注30).相転移とは組成が変わらないまま,温度・圧力の変化により物質の状態や構造が変化することである.地球内部は深くなるにつれ圧力が急激に増加していく.このため,鉱物はその圧力を支えられる丈夫な結晶に構造を変化させる.これが鉱物の相変化である.深さ660 kmにある地震波速度が急激の増加する場所,すなわち上部マントルと下部マントルの境界は,マントルの主な構成鉱物であるかんらん石の相が変化する相境界なのである.
 
この図の下のようにスラブが,溜まる量が増えたらどうなるだろう?この時でも,相境界の凹みが増えることはない.沈み込んでくるスラブの温度はだいたい同じ位だからである.このため,相変化による密度の増加で支えられるスラブの厚さには限度があり,スラブが薄い場合やスラブ全体の重さがあまりスラブの下端にかからないような状態の時のみ支えることができる.「スラブ全体…の」状態がどんな状態かは,後で説明する.そのため,溜まった量が多くなると,最後はスラブを相境界の浮力が支えきれなくなって,スラブは下部マントルへ向かって落下を始めるのである (注32).
 このように鉱物の相というマントルの持つミクロスケールの状態が,マントル対流全体の構造を決めているのである.なお,クラペイロン勾配は,相変化を観察する高圧実験によって決めることができる.
 
 
このような相境界にスラブが落下してくるとどうなるのだろう?相境界は図8のように,圧力だけで決まっているのではなく,温度にも関係する.図8の相境界の線の傾きのことをクラペイロン勾配と呼ぶ.冷たいスラブが相境界にぶつかると,相境界が下に凹むのである.相境界の凹みの量はクラペイロン勾配と温度差の積に比例する.これによって,図9の様に,沈んでくるスラブを一時的に支えるのである.
図8: 上部・下部マントルの境界における鉱物の相転移とマントルの温度の影響
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図9: 沈み込むスラブが相境界に衝突した際に起きる相互作用
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(注30) 相転移 (相変化) の1つの例は水 (液体) と氷 (固体) の変化である.この変化は物質の状態の変化である.鉱物の相転移では物質の状態は変化しない.
(注31) 深さ410 kmと520 kmにも地震波伝搬速度が急に増加する場所があり,かんらん石の相転移が起きる..深さ410 kmから660 kmまでのマントルをマントル遷移層と呼ぶ.かんらん石はオリビンからウォズリアイト (410 km),リングウッダイト (520 km),ブリッジマナイト+ペリクレース(酸化マグネシウム)(660 km)へと相変化する.660 kmでは全体の組成は変わらないが2つの鉱物に分解している
(注32) スラブが下部マントルに落下するという地震波トモグラフィーの観測は,下部マントルが上部マントルと同じ組成であるという非常に重要な結論をもたらす.これは地震波トモグラフィーによって明らかになった最も重要なことの1つである.