Plate tectonics and mantle convection
 
プレートテクトニクスとマントル対流
4. マントル対流とプレート運動
 熱を運ぶ方法は3つあること思い出してみよう.その3つとは,放射熱伝導対流である.放射は光や赤外線などの電磁波によって熱を運ぶ方法である.このため,光を通すような透明な物質でないと放射によって熱を運ぶことは出来ない.このため,透明ではない岩石から出来ているマントル中で,放射は重要ではないと考えられる.熱伝導は固体や液体中で,原子や分子がぶつかることにより,その振動がゆっくり伝わることにより起きる(注9).このため,熱伝導は熱を運ぶ効率があまり良くない.熱伝導による熱の伝わりやすさのことを熱伝導率と呼んでいる(注10).対流は流体の中で起きる熱輸送の方法である.たとえば,やかんに水を入れ,火に掛けているのを想像しよう.水は温められると膨張し,密度が低下する.そして,周りの水よりも軽いので,上昇をし始める.逆に表面付近にある水は温かい水よりも密度が高くなり,重いので下降し始める.温かい水が表面に達すると,冷たい空気中に熱を放出する.熱い物質が表面に移動して熱を放出するため,対流は物が移動しないで熱を伝える伝導よりも効率よく熱を運ぶことが出来る.
 この対流運動こそが,プレートを作り出し,プレートを動かす原因である.マントルは地球が作られた時の余熱と放射性元素による加熱によって高温であり,外側から冷やされる状態である.ちょうど,熱い味噌汁が表面から冷えていくのと同じである.味噌汁の中で何が起きているのかよく観察してみよう.味噌が下に沈んでいくのと同時に,味噌の濃い部分に模様が出来て来るのが見える.これは表面で冷やされた汁が重くなって味噌の濃い部分に落ちて行くからである.表面で冷たくなった汁が混ざっていくことにより味噌汁全体もだんだん冷えていく.地球表面の岩石も,冷やされると,密度が大きく重くなる.そうすると,マントルの中に落下して行く.その沈み込む速さはマントルの流れやすさ(にくさ)の度合い,つまり粘性率が決める.このときに,周りの冷えた部分を引っ張るので,表面では水平の運動が起こされる.この冷たい部分の水平運動がまさにプレートの運動である.つまり,プレート運動はマントルの対流運動において,表面の動きを見ているのである(注11).
 すなわち,プレートは対流しているマントルの一番上の冷たい部分ということになる.プレートは,もう少し専門的な言葉でリソスフェア(注12)と呼ばれる.プレートのマントルへ沈み込んだ部分はスラブと呼ばれる.
 図2を見ながらもう少し詳しくプレートの運動について考えてみよう.プレートの水平運動が起きると,プレートが退いてしまった部分が出来る.ここには,それを埋めるようにマントル内部から高温の岩石が上昇して来ることになる.このような場所が中央海嶺である.ここでは,上昇してくる熱い岩石からマグマが出来て,海底に火山の大山脈を形成している.その全長は地球2周分にもおよぶ.そして,熱い岩石も水平に移動しながら冷えて行き,プレートに付け加わる.つまり,中央海嶺で新しいプレートが作られているのである.図3に海洋プレートの年代を表した図がある(注13). 図1と比較すると,中央海嶺から離れるに従って,プレートが古くなることが確かめられるだろう.プレートは表面から冷やされて,冷たいところが徐々に厚くなる(注14).2つのプレートが水平にすれ違う場所には,大規模な横ずれ断層を生じる.これが,トランスフォーム断層である.プレートが別のプレートとぶつかり合うと,どちらかのプレートがもう一方のプレートの下に潜り込む.プレートの境界は,プレートとプレートが行き違いをする低角逆断層となっていて,巨大地震を発生させる.沈み込んだプレートはマントルに落下してゆく.このとき,スラブが地表を下に引っ張るので,沈み込み帯には細長いくぼみが形成される.このくぼみは海溝と呼ばれる.沈み込み帯は,このような場所である.
 
 マントルの上には地殻が載っている.地殻はマントルとは組成が異なる軽い物質からなる.プレートというのは,地殻と,マントルの最上部の冷たくなった部分と考えることができる.海洋下の地殻は海洋地殻と呼ばれ,中央海嶺の火山のマグマから作られる.海洋地殻は,薄くてそれほど軽くない(注15)ので,冷たくなったマントルの岩石と一緒にマントル中に沈んで行く.ところが,大陸の地殻は軽い岩石で出来ていて(注16),しかも厚いので,大陸地殻の載っているプレートは冷たくなっても重くなく,沈んで行くことが出来ない.このため,大陸のプレートは安定してマントルの上に浮かんでいることができる.海洋と大陸のプレートを区別して,海洋プレート大陸プレートと呼んでいる.
 ところで,マントルは上から冷やされるだけでなく,下にある核から出てくる熱でも熱せられている.味噌汁で言うと,コンロで暖められている状態である.このため,核とマントルの境界では,ちょうどプレートと反対のことが起こり,熱く,軽くなった部分ができる.この部分は地表へ向かって上昇して行く.マントル深部から上昇する流れが運んできた熱は,インドのデカン高原のような玄武岩台地(洪水玄武岩とも呼ばれる)やハワイやイエローストンのような孤立した火山 (注17) を作ると考えられている.孤立した火山をつくることから,上昇する流れの形状は円筒状であると推定され,プルームと名付けられている.このような,マントルの中で起きている対流をマントル対流 (注18) と呼んでいる.
 
 
(注9) 熱の正体が原子や分子の乱雑な振動であることを思い出そう.
(注10) 熱伝導率は物体1 mあたり1°Cの温度差があるときに1 m2の面を通して1秒間に運ばれる熱量で表される.マントルを構成する岩石の熱伝導率は磁器やガラスと同じくらいである.これらの物質は,木材と比べると10倍以上の熱伝導率を持っている.また,核の主成分である鉄と比較すると1/10,熱伝導性の良い金や銅と比較すると1/100程度である.
(注11) 地球のプレート運動の速さは,1年間あたり1-10 cmである.ゆっくりすぎて想像しづらいが,だいたい爪が伸びる速さくらいである.
(注12) リソスフェアを岩石圏と訳すことがあるが,地質学会ではそのままカタカナ書きで使用することを推奨している.リソスフェアの下にある高温で岩石としては流れやすいマントルはアセノスフェアと呼ばれる.図4.1.2において,プレートとアセノスフェアの境界は,はっきりと書いてあるが,温度が徐々に変わる境界であり,(少なくとも温度のみで考える場合) 明瞭なものではない.最近の地震学的研究や地球電磁気学的研究からは,海洋プレートの下では地震波速度や電気伝導度が明瞭に異なることを示すデータもある. そのため,リソスフェアとアセノスフェアの境界を作る原因は部分融解あるいは水であるとする考えもある.
(注13) 赤い方が新しく作られたプレート、青い方は古いプレートである.黒い実線はNUVEL-1モデルに基づくプレート境界を表す.年代のデータはMüllerらによる (文献3).不明瞭なプレート境界が描かれていないテキサス大学 (文献4)プレート境界データを用いた図はこちら
(注14) プレートの厚さは,熱伝導率の大きさと冷やされる時間 (プレートの年代) で決まっている.厚さはプレートの年代の平方根に比例して増加し,1億年の年代を持つプレートで厚さはだいたい100 kmである.プレートは,厚くなると重くなるので,ちょうど積み荷が増えて喫水 (きっすい) の下がる船のように沈下する.プレート全体でアイソスタシーが成り立っているのである.そのため,プレート年代の古い場所ほど大きな水深を持つ.
(注15) 主に玄武岩でできている.
(注16) 主に花崗岩からなる.
(注17) 海嶺や沈み込み帯と独立した点状の火山のある熱い場所をホットスポットと呼ぶ.
(注18) 大陸移動説の原動力として,最初にマントル対流を提唱したのはA. ホームズである.1928年グラスゴーで開かれた地質学会で発表されたが,プレートテクトニクスが認められるようになるまでほとんど顧みられることはなかった.ホームズは放射性元素を地質年代測定に応用出来ることを発見した研究者の一人であり、地球の年齢を推定したことでも知られている.
図3: 海洋プレートの年代
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