Plate tectonics and mantle convection
 
プレートテクトニクスとマントル対流
2. 岩石の流動
 地球の地殻とマントルは固体の岩石,外核は液体の金属(主に鉄),一番内側にある内核は,固体の金属から出来ている.ところで,固体や液体,そして気体という言葉は物質の状態を表すものである.3つの状態の違いは,物質を構成する分子あるいは原子の動きやすさの違いである.気体分子が最も動きやすく,気体ほどではないが,液体分子も自由に動くことができる.このため,気体も液体も自由に形を変えられる.一方,固体では,分子や原子はとても動きにくい.このため,形はほとんど変わらない.しかし,固体でも変形が起きる.バネは力を加えると,伸びたり縮んだりする.力を抜くと元に戻る.このように,力をかけているときにだけ変形する性質を弾性と言い,その変形を弾性変形と呼ぶ.弾性変形では,力を加えている間は分子や原子の位置が変わるが,力を取り除くと,分子や原子がそれぞれの間の反発力によって元の位置に戻るのである.地震波は弾性変形が伝播する波である.ガラスを落としたり,物にぶつけたりすると,ガラスは壊れてしまう.これは,急に大きな力が加わって,物質を形作っている分子と分子,あるいは原子と原子の繋がりが切れてしまうからである.壊れることは,一種の変形であり,破壊,あるいは,脆性変形と呼ばれる.では,壊れない程度の力を長い時間加えたらどうなるだろう?このときには,物質内の原子と原子が1つずつ入れ替わって,ゆっくりと物の形を変えることが出来る.たとえば,針金に力を加えたときに起こるような変形である.このような変形の性質を塑性と言い,その変形を塑性変形と呼ぶ.塑性は,力を抜いても元の形に戻らない性質という意味である.この仕組みによって,岩石のように固体でも,長い時間を掛ければ,液体と同様に変形し,流れることができる (注3).
 液体でも固体でも流れる性質は同じ法則に従い,その運動を同じ式によって表すことが出来る.そのため,流れる性質をもつ物体のことをすべて含んで流体と呼ぶ.流体の変形の性質は,粘性と呼ばれ,その変形は粘性変形と呼ばれる.流体とは,物質の状態ではなく,変形のしかたに注目した言葉である.つまり,流体には,気体や液体だけでなく,固体も含んでいるのである (注4).運動のしかたの違いは,おおざっぱに言うと,流れやすいか流れにくいかである.流れにくさの度合いは専門用語で,粘性率と呼ばれる (注5).粘性率は,一定の速さで物体を変形させるのに必要な力の大きさである.身の回りの物では,水より蜂蜜のほうが流れにくいので,蜂蜜は粘性率がより高い流体ということになる.地殻やマントルを構成する岩石はとても高い粘性率を持ち,1000年くらいの長い時間で見ないと流体として見ることが出来ない.100年くらいの時間だと,流れる性質が現れずに,弾性や脆性による変形の性質が目立つようになる.このような変形が起きるのが地震である.
 
(注3) マントルが流動することが証明されたのは1848年にG. B. エアリーとJ. H. プラットによってアイソスタシーと呼ばれる現象が発見された時である.私たちがその上に暮らしている地殻は,海に浮かぶ氷山のように流動するマントルの上に浮かんでいる.このため,アルキメデスの原理によってヒマラヤのように高い山のあるところほど地殻が厚いはずである,というのがアイソスタシーの考えである.実際ヒマラヤでは,普通の場所の2倍厚い地殻があることが分かっている.
(注4) 塑性は固体が流れる性質である.
(注5) マントルの粘性率を定量的に知る方法として後氷期変動を使うことができる.後氷期変動とは氷河期の後に起こる地殻の上下変動である.氷河期が終わって 地表を覆っていた氷河が溶けると,氷河の加重でへこんでいた地殻が元に戻ろうとして上昇するのである (グリーンランドや南極大陸は今でも氷河に覆われているが,その岩石の地面は氷河の加重のため海水面下にある).その速さから粘性率の値を見積もることができる.