4. 数値シミュレーションでメガリスの形成と運命を再現する
では、上で考えた原因で、本当にメガリスを作ることが出来るのでしょうか?さらに、メガリスは将来どのような運命なのでしょうか?このような問いに答えるために、理論的な予測が非常に有用な道具になります。マントルの密度と粘性のという物性を表す2つ式と、流体の運動と熱輸送を表す式と組み合わせれば、マントルの運動を理論的に予測することが可能になります。しかし、実際にはマントルの粘性や運動を表す式は複雑なので、高校の物理で出てきた問題のように紙と鉛筆だけで計算することは出来ません。こういう場合にはコンピュータを使って計算をします。このような方法を数値シミュレーションと呼んでいます。流体の数値シミュレーションは身近なところで大変役立っています。大気の運動を計算して天気予報や地球温暖化の予測をしたり、走る自動車のまわりの空気の運動を計算して、空気抵抗が小さく燃費の良い自動車を設計することになどに利用されています。我々は、数値シミュレーションによって、コンピュータの中にマントル対流を再現することを試みています。残念ながら、大気の運動のようにマントル対流全体を一度に再現することはまだ不可能です。これには2つの理由があります。1つはコンピュータの能力が不足していること、もう1つは、マントルの物性、特に粘性が複雑で、それを表す式が完全には分かっていないことです。しかし、沈み込むプレートの運動を再現し、メガリスの成因や将来について考えることは、最近可能になってきました。ここでの計算はまだ研究中のものですが、最新の計算結果をお見せしたいと思います。
計算はプレートが沈み込む前の温度から出発します。運度が分かると粘性率が計算できるので、運動速度が計算されます。さらに、運動に合わせて温度を動かして、その温度から流れを計算する…ということを繰り返して行きます。このよう計算した結果が
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図5
です。図は温度と粘性率の分布を表していて、青〜白で塗られた温度の低いところがプレートです。こういう計算はムービーで見た方がよく理解できます。ムービーを
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ここ
に置いておきますから、こちらもご覧下さい。ムービーを見るとマントルは速く動いているようですが、そうではありません。数字は時間を表していて、10が1千万年です。つまり横たわるスラブが出来るまでに2千万年以上も掛かっています。映画のようにマントルが速く動くことはありません。
スラブは、660km境界に留まりながら、海側へ後退していきます。ここのところも、映画とは違っています。どう違うのかは、映画をご覧下さい。さて、
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図5
の左側の計算では、スラブが660kmにある相変化面の上に留まり続けます。ジャワのスラブように、下部マントルへ沈み込んで行くメガリスを再現するにはどうしたら良いでしょうか?前のページで、相変化による密度の増加で支えられるスラブの厚さには限度があると述べました。それ以上スラブを積み上げたらどうなるのでしょうか。このときには、相変化面をスラブが突き破ってスラブは下部マントルへ沈み込んで行きます。では、スラブを積み上げるのにはどうしたらよいでしょうか?それには、スラブを前のモデルよりも低い粘性率にして、前後に縮むような変形をさせれば良いはずです。このような計算を行った結果が
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図5
の右側(ムービーは
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こちら
) です。この数値シミュレーションでは、いったんメガリスを660km相変化面の上に作ってから、下部マントルへ落とすことに成功しています。
ここでお話ししたことはまだ研究中のものです。このため、将来より正確な知識が得られたら変わるかも知れません。地震波の観測や高圧物性実験と比較しながら理解を深めて行けば、メガリスの将来を予測することが可能になると思います。ここで述べたように地球内部という手の届かないところの運動を理解するため、また、地質学的時間というのを乗り越えるために、数値シミュレーションという手段が大変有効であることを理解いただけたらと思っています。また、ここでの話によって、映画「日本沈没」をより興味深いものになったのなら幸いです。ここまでお読み下さり、ありがとうございました。
なお、図5は2007年度まで学生だった多川君が計算を行ったものです.ここに記して感謝したいと思います.
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この話題にその後の研究の成果を加えた話は▶
こちら
です。
コンピュータでメガリスを作る〜沈み込んだプレートの行方を探る