3. 沈み込んだプレートの行方を見る
 マントルの中にマントル対流という運動があり、その表面の動きがプレート運動ということは理解できたと思います。では、沈み込んだプレートはどのように、どこまで沈んでいくのでしょうか。大気でしたら、風速計や温度計を使って流速や温度を知ることが出来ます。しかし、我々はマントルの中に計測器を入れることが出来ません。このため、地震波トモグラフィーという間接的な方法で調べます。岩石は温度が高くなると密度が低くなるのですが、同時に地震波が伝わる速さも遅くなります。たくさんの地震波の伝わり方を調べると、どこに地震波が伝わるのが遅い部分、つまり熱い部分があり、どこに速い部分、つまり冷たい部分があるのか分かるようになります。つまり、マントルの温度の写真が撮れるようになります。残念ながら地震波の観測で撮れるマントル写真はまだぼんやりとしているのですが、どうやら、深さ660kmあたりに溜まっているらしいと言うことが見えてきました。この溜まっている部分はトモグラフィーを信じるととても巨大なので、メガリス(巨岩)と呼ばれます。メガリスは映画の「日本沈没(2006年)」を見た方なら覚えておられるのではないかと思います。メガリスは、沈み込まないで留まっているスラブと言う意味で、スタグナント・スラブと呼ばれることもあります。代表的なメガリスは伊豆諸島の地下にあります。一方、インドネシアの沈み込み帯の地下では、660kmより深い部分にメガリスが存在しているように見えます。
 では、メガリスはどのように原因で作られるのでしょうか?そもそも、プレートは冷たくて密度が高いので沈み込んで行くのでした。とすると、660km付近に留まっているというのは660km付近では重たくなくなるからなのではないでしょうか?実は深さ660kmには地震波速度が急に速くなる不連続面があります。 この不連続面では、 密度も8%くらい増加します。なお、マントルのうち、660km不連続面よりも浅い部分を上部マントル、深い部分を下部マントルと呼んでいます。スラブの密度は温度が低いことにより2〜3%だけ周囲の上部マントルより大きくなっています。つまり、密度の関係が、
 上部マントルの密度<沈み込むスラブの密度<下部マントルの密度
のようになっています。このとき、スラブが上部マントルと下部マントルの境界に達したらどうなるでしょうか?もしも、密度差を生じる原因が、 図2ように上部マントルと下部マントルが別々の物質で出来ていることにあるとすれば、話は簡単です。スラブは物質の境界上に留まります。もしも、上にどんどんスラブを積み上げたらどうなるでしょうか?このときは境界の凹みが大きくなって浮力を発生し、スラブの重さを支えます。これは、アルキメデスの原理ですね。しかし、実際はもう少し複雑で、密度が増加する原因は、岩石を作っている鉱物の相変化であると考えられています。鉱物の相変化とは、圧力が増加すると、その圧力を支えられる結晶構造へ変化することです。結晶が密な鉱物の方が高圧を支えられるので、下部マントルの鉱物の方が密度が高くなります。この場合はどうなるのでしょうか?ここはちょっと難しいのですが、相変化の起こる面が凹む量は限度があります 。というのは、相変化面は温度に比例した量しか凹むことが出来ないからです( 図3)。このため、相変化による密度の増加で支えられるスラブの厚さには限度があり、スラブが薄い場合のみ支えることが出来ます ( 図4)。密度の境界面がどのくらい凹むのかは、鉱物に高圧をかけて相変化を観察する実験によって決めることが出来ます。このような実験は高圧物性実験と呼ばれ、マントルを構成する物質の性質(物性)、例えば密度や地震波速度、粘性率などを決める重要な役割を持っています。
 
 
コンピュータでメガリスを作る〜沈み込んだプレートの行方を探る