2. プレートとマントル対流
では、プレートとはいったい何でしょうか。プレートをよく知るためには、プレートがどのような過程で出来るのか理解すればよいでしょう。それにはマントル対流を知る必要があります。地球は大きく分けると岩石で出来た部分と金属の鉄で出来た2つの部分からなっています。岩石で出来た部分は地殻とマントルの2つに分けられます。金属で出来た部分は核と呼ばれ、液体の鉄で出来た外核と固体の鉄で出来た内核とに分かれます。ところで、地殻やマントルを構成する岩石は固体です。固体は形を保つことが出来る堅さを持った物のことですが、固体も長い時間をかけたり、強い力を受けると粘土のように元に戻らない変形(塑性変形)を起こします。固体である金属の棒を曲げることが出来るのは、日常でも見たことがあると思います。岩石はもっとゆっくりですが、やはり金属と同様に塑性変形を起こします。こうした塑性を持つ物体の運動は、水や空気と同じに、流体として扱うことが出来ます。ただ、水や空気と比べてとても粘りけが強く、ゆっくりとしか動けない流体なのです。すなわち、地球の歴史のような長い時間で見ると、地殻やマントルも流れていると考えて良いことになります。流体の粘りの強さを表す量を、専門用語で粘性率と言います。
ところで、地球の内部は熱いので、外側から常に冷やされる状態になっています。ちょうど熱い味噌汁が表面から冷えていくのと同じです。味噌汁の中で何が起きているのかよく観察してみてください。味噌が下に沈んでいくのと同時に、味噌の濃い部分に模様が出来て来るのが見えると思います。これは表面で冷やされた汁が重くなって味噌の濃い部分に落ちて行くからです。表面で冷たくなった汁が混ざっていくことにより味噌汁全体もだんだん冷えてゆきます。このように流体が移動することにより熱を運ぶ過程のことを対流と呼びます。つまり味噌汁の模様は対流の様子を見ているということになります。地球の表面でも岩石が冷やされると、密度が大きく重くなります。そうすると、マントルの中に落ちていきます。その沈み込んでいく速さはマントルのネバネバの度合い、つまり粘性率が決めています。このときに、周りの冷えた部分を引っ張るので、表面では水平の運動が起こされます。この冷たい部分の水平運動がまさにプレートの運動で、冷たい岩石が重くて落ちていくのがプレートの沈み込みです。プレートは、もう少し専門的な言葉でリソスフェア(岩石圏という意味です)と呼ばれます。プレートのマントルへ沈み込んでいる部分はスラブと呼ばれます。また、プレートの沈み込んだ部分はプレートの水平運動が起きると、プレートが退いてしまった部分が出来ます。ここには、それを埋めるようにマントル内部から高温の岩石が上昇してきます。このような場所は中央海嶺と呼ばれ、上昇してくる熱い岩石からマグマが出来て、海底に火山の大山脈を形成しています。そして熱い物質も水平に移動しながら冷えて行き、プレートに加わります。このような、マントルの中で起きる循環をマントル対流と呼んでいます。つまり、プレートというのは対流しているマントルの一番上の冷たい部分ということになります。ところで、マントルは上から冷やされるだけでなく、下にある核から出てくる熱で熱せられています。味噌汁で言うと、コンロで暖められている状態ですね。このため、核とマントルの境界では、ちょうどプレートと反対のことが起こり、熱く、軽くなった部分が出来ます。この部分は地表へ向かって上昇して行きます。下降する流れはプレート、つまり板状でしたが、上昇の流れは煙突状の形をしているので、プルームと呼ばれます。この様子を図に表すと
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図1
のようになります。
マントルの上には地殻が載っています。地殻はマントルとは組成が異なる軽い物質で出来ています。プレートというのは、地殻と、マントルの最上部の冷たくなった部分と考えると正確です。海洋下の地殻(げんぶ岩で出来ています)は薄くてそれほど軽くないので、冷たくなったマントルの岩石と一緒にマントル中に沈んで行きます。ところが、大陸の地殻は軽い岩石(かこう岩)で出来ていて、しかも厚いので、大陸地殻の載っているプレートは冷たくなっても重くなく、沈んでゆくことが出来ません。このため、大陸のプレートは安定してマントルの上に浮かんでいることが出来ます。海洋と大陸のプレートを区別して、海洋プレート、大陸プレートと呼ばんでいます。大陸プレートは海洋プレートより軽いため、沈み込み帯では、海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込んでいくという非対称的な構造になります。
なお、地表面でプレート運動が起こっている惑星は地球以外に見つかっていません。このため、なぜ地球だけにプレート運動が起きているのかという問いは、地球・惑星科学において重要な課題となっています。この問題については、いつか機会があれば取り上げてみたいと思います。
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コンピュータでメガリスを作る〜沈み込んだプレートの行方を探る