核・マントル境界近傍における地震波速度異方性と超低速度層の成因
図:核マントル境界近傍D”層での小スケール対流の発生と部分融解した物質の変形
最深部のマントルには熱い核から熱せらて熱境界層が形成される.熱境界層内は温度が高いため,部分融解を発生する可能性がある.また,粘性率も著しく低下するため,部分融解した層の中で小スケールの対流が発生する可能性がある.ここでは,小スケール対流が部分融解した物質を変形させ,それが地震波速度の異方性に与える影響を計算した.上の図は微少部分の変形を楕円により表している.塗りつぶしているところが部分融解した物質であり,最初にメルトが発生した時に等方的であったものが引き延ばされて行く様子を表している.最終的には数10倍以上引き延ばされ,地震波速度に大きな影響を与える.このモデルの欠点は2次元計算であることであり,より定量的な見積もりには3次元の計算が必要である.
 
図:D”層での部分融解した物質の変形による地震波異方性と超低速度の形成
左3つの図は異なる時間におけるS波速度異常を表し,赤がSH波(水平に振動する横波).青がSV波 (垂直に振動する横波) の速度である.右は異方性の大きさである.部分溶融層はメルトの引き延ばしによってラミナ的な構造を持つので,それを垂直に振動させる,あるいは垂直に通り抜ける波は遅くなる.このため,SH波・SV波の速度が異なり,異方性を形成する.また、メルトが大きく引き延ばされる最下部10kmには20%以上の速度低下を持つ超低速度層が形成される.
 
関連論文
 
T. Okamoto, I. Sumita, T. Nakakuki and S. Yoshida (2005) Deformation of a partially molten D? layer by small-scale convection and the resulting seismic anisotropy and ultralow velocity zone, Physics of Earth and Planetary Interiors, 153, 32-48.